第五話 第二章「そんなイライラしても目玉は増えねえぞ」
目玉の入った袋を最後まで離さなかった。
だが最後には、カノンの持っていた鎌で布をスッパリと切られ、こぼれ出た中身をレイブンに回収されてしまった。
すぐに取り返そうと手を伸ばすが、二人は間合いを取るかのように空に飛びあがった。
「なあんだ、これっぽっちならあんまり妨害の必要なかったかもねー」
目玉を回収したカノンが気の抜けた声を出す。
「じゃあ置いてけよ!」
アルトが怒鳴りながらハンマーを投げるが届かず、そのまま落ちて来た。
地面にクレーターのような穴が開く。
「ま、今回は挨拶第二弾ってことでいいんじゃないかな?」
「そうね。そういうことにしておきましょ」
そんなことを言う声はどんどん遠ざかっていく。
「覚えとけよてめえら!」
まるで悪役の下っ端化のような捨て台詞が聞こえたのか聞こえなかったのか、レイブンとカノンは返事をすることなく、どこかへ行ってしまった。
今からではどう頑張っても追いつかないだろう。
ゴロンとなんとか寝返りを打ち大の字になってみたが、足は動きそうにない。
しばらくすると、どうにか氷から抜け出したらしいミィレが顔を覗き込んだ。
つづいてジェンとソフィアも駆け寄って来て、アルトを見おろす。
「うわーアルトダッサ」
「うるせえな。作戦の内だっつの」
ある意味囮作戦が成功したと言えなくもない。
アルトは全ての目玉を受け取らなくてよかったと改めて思った。
「ミィレちゃんなら両方持ってでも逃げきれたのに。ソフィアでも可」
「あの氷から抜けられたの私だけだろ」
「あの時、ツッコミが邪魔さえしなけりゃ一人減らしてやれたってのに」
ジェンの文句にアルトはすぐさま噛みつく。
「お前の腕の問題だろ! それに、私だってお前の邪魔がなければ逃げきれてた!」
「どうだか。お前が余計なことしなけりゃ矢は青い方に一直線だった」
きっぱりというジェン。二人は子どものように「ふん!」と顔を背けあう。
子どものように、というより完全に子どもの喧嘩のそれなので、ソフィアとミィレは顔を見合わせて苦笑いした。
「……それより、ミィレ、これ治してくれないか?」
そういってアルトは矢がかすった足を指示した。
正座をしたときよりずっと酷い痺れは、まだ続いている。
「なおしてって、かすり傷じゃん。アルトよわっちー」
傷を見てミィレが呆れた顔をした。
「違げぇよ馬鹿! なんか神経かなんかに触れてしびれてんだ!」
えー、本当? と疑わし気な目で見ながらアルトの足をツンツンとつつく。
触れられているのは辛うじてわかるが感触が鈍い。
ミィレはしかたないなーなどともったいぶりながらも、回復魔法をかけてくれた。
小さい傷は一瞬のうちに見えなくなる。しかし、感覚は戻らない。
「ええ? うそぉ。わたし、ちゃんとお仕事したよ?」
首をかしげるミィレの後ろでジェンがあっと声を上げる。
「あー、わっちが麻痺付加したからだ」
「お前のせいかよ!」
「だからなんなんだよその言い方! 邪魔されたのはわっちだっつーの!
また子どもの喧嘩をし始めようとする二人の間で、ミィレが口を尖らせた。
「えー、じゃあこの魔法じゃダメじゃん。二度手間ぁー」
ぶーぶーと文句を言いながらも、きっちり状態異常を解く魔法をかけた。
見た目に変化はなかったが、今度はちゃんと感覚が戻る。
確かめるかのようにぐるぐると回してみる。
ちゃんと動く、感覚もある。
立ち上がって歩けることまで確認してから、四人は気を取り直してイナエの街に入った。
夕方のこの時間は一段と客が多い為、少々遠回りして人通りの少ない道を選んで宿屋へと帰る。
やっぱり、連携なんて無理だろ。
最後尾のアルトがぶつぶつと文句を言うが、三人とも気にする様子はない。
それにまたイライラし始めたアルトだったが、ふいに急に足を止めた。
武器屋の影に猫がいるのを見つけたのだ。
アルトは素早く近寄り、顎をさすると猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
先ほどまでのしかめっ面を崩れている。
愛くるしい声、見た目、肌触りに、アルトの疲れやイライラは溶けていく。
アルトがついてきていないことに気付いたジェンが声をかける。
「おい、先に帰るぞ」
「ああ、そうしてくれ」
アルトは顔をもあげずにひらひらと手を振った。
その様子にジェンは呆れたように肩をすくめ、ミィレとソフィアをゆっくり追いかけていった。
「ったく、ほんとしょうがねーよな。お前あいつらに仕返ししてくれにゃー」
冗談で猫に向かって言ってみる。
すると、猫はにゃお、と鳴くと、アルトの手からすり抜けた。
連れないなあ、と思いながらアルトは名残惜しそうに猫を見送る。
猫はまっすぐジェンに向かい、優雅な動きで背中から肩へよじ登り、すぐにどこかへ行ってしまった。
ジェン達は猫が去った方向を向いて動きを止めている。
その時間があまりにも長いので、不審に思ったアルトは、仕方なく三人に近づいた。
「何固まってんだ?」
三人は振り返り、代表でジェンが口を開いた。
「てめえの猫」
「別に私のじゃない。野良だ」
「それはどうでもいい。とにかく、あの猫、残りの目玉もってったぞ」
「は!?」
ジェン曰く、肩に乗ったと思ったら袋ごとかすめ取って逃げた。
冗談でもジェンに報復を頼んだアルトはさっと顔を青くした。
猫に、ましてやさっき会ったばかりの野良にそんなことを言ったからって猫が律儀に実行するだろうか。
常識的に考えるなら、当然答えは否。だが実際に起こっている。
「ど、どうするんだよ!」
「どうするって……ねえ?」
「そうね、困ったわね」
「やばいよな」
アルトは狼狽えたが、三人は対照的に妙に冷静な様子である。
「……な、なんでそんな落ち着いてるんだ?」
「いや、なんかもうどうでもよくなって」
もしかしてなにか打開策があるのかとちょっと期待を持って聞いてみたが、そんなものはなく、ただの諦観でしかなかった。
「あきらめてんじゃねーよアホ! 探せよ!」
渋々ながら動く三人を引っ張って猫のたまり場などをいくつか探したが、目玉の一個も出てこない。
結局ソフィアが、道に落ちていた空の袋を見つけただけに終わった。
宿屋に戻ると、ジェンとミィレはテーブルの定位置に着き、ソフィアはお茶の準備を始めた。
アルトもそれにならって椅子に座る。
彼女が加入するまで空いていた、ミィレの向かい、ソフィアの隣がアルトの定位置だ。
「目玉、どこいったんだろうな」
ポツリと言うとジェンが頬杖をついてからかう口調で言った。
「これだから猫は」
「気まぐれなところも猫の醍醐味だろ」
「その醍醐味のせいで今日の取り分はパアだけどな」
アルトはぐっと押し黙った。
盲目的な愛でも、今回ばかりは言い返せない。
ソフィアがお茶をそれぞれのコップに淹れる。
コポポ、と音を立ててやわらかい湯気が立ち上った。
リンゴのイラストが描いてあるコップをミィレの前に、置く。
ミィレはお礼を言ってお茶を一口含み、そしてアルトに向かって言った。
「アルトのコップも買わないとね」
ソフィアがアルトの前に客用のコップを置きながら問う。
「アルト、本当にコップもってないの?」
「……ああ、来客用のは二,三個あるが……。この前、うっかりわっちまったんだよな」
アルトはうっかりを強調した。
嘘は言っていない。うっかり握りつぶして割ってしまったのだ。
その際の掌の怪我はミィレに治してもらった。
緑色の湯呑をジェンの前に置いた。
ジェンはお面を少しだけ浮かせ器用にお茶を啜った。
コトリと湯呑を置いて、少しずれてしまったお面をなおす。
彼女は朝から晩まで二十四時間何があっても、それこそ寝る時でさえ、お面を外すことはない。
それ故、何かを摂取する時はこうして口元だけが出るようにお面をずらすのだ。
この中の誰もジェンの素顔を見たことはない。
ソフィアもお茶を飲んでほっと息付き、ミィレは雑誌を手元に引き寄せた。
雑誌のページが繰られる音と、お茶を飲む音だけが静かに聞える。
それから来客が来たり、ソフィアが夕食のリクエストを聞いたりと、のんびりとした平和な雰囲気がただよった。
どうやら今日の晩御飯は野菜スープになりそうだ。
そんな空気をぶち壊したのはアルトだった。
ソフィアが淹れ直してくれたお茶のおかわりを受け取る前に、怒鳴りながらテーブルを叩いた。
「お前等な! なんでそんなにのんきに茶ぁなんて……」
「おい、今ミシッつったぞ」
アルトの怒声をものともせずジェンが指摘すると、ソフィアがかがんでテーブルの下を覗いた。
「あー、ちょっとヒビ入ってるわ」
「もう、アルト気を付けてよね」
ミィレに注意され、アルトは思わず謝りかける。
「す、すま……いやいやいや! なんで私が注意されてんだよ!」
アルトはたまらず立ち上がった。
丸い形のはずの黒い目がつり上がっている。
彼女の怒りっぽい性格のせいで、その形がデフォルトのようになってしまっている。
ここ最近は特に。原因はもちろん、目の前にいる仲間たちだ。
「だいたいミィレ! やる気はどこ行った! めろなに恩売るんだろ!」
「んー、そうだったんだけどねぇ。なんかもー、やる気ゼローって感じ」
ダルさを表すかのように、両手を伸ばしべたぁっと突っ伏する。
そもそもこの依頼を選んだ理由は、ミィレが依頼者のめろなに恩を売りたかったからだったはずだ。
なのに、当の本人はこのありさまである。
進んで依頼者へ話をしに行くことまでは積極的に行っていたのだが、依頼を受けた報告をした時のめろなの反応だけで満足してしまったのだろう。
「それに、この依頼って種類的にモンスターの討伐じゃない? か弱いミィレちゃんの出番じゃないんだよね」
今回の依頼がイェピカの目玉をバケツ一杯分集めてほしいということは先日、依頼主であるめろなに教えてもらうまでは知らなかった。
だが、クエストを選ぶときに大雑把な種類は把握できる。
そもそも、それを承知で選んだのもミィレのはずだ。
本当にめろなへの嫌がらせだけが目的で受けたクエストだったらしい。
「俺も相手が人なら嬉しいし、やる気もでるんだけど……」
ソフィアまでもがそんなことを言い出し、がっくりとうなだれるアルト。
「仕事だろうが! ちゃんとしろ!」
声を荒げるアルトに、ジェンが舌打ちする。
「真面目かよお前」
なぜ彼女たちはここまでやる気がないのだろうか。
確かにこのクエストは半ば強制的にすることになったものだし、報酬が豪華なわけでもない。
だが、受けた以上はちゃんと遂行するべきだろう。
グダグダとした雰囲気の原因は、彼女たちの実力がありすぎることにあった。
やる気がなくてもなんだかんだどうにかなってしまう。
さながら、なんだかんだで宿題が最終日ギリギリで終わらせてしまえるため、去年の苦しみを忘れて、結局今年も手を付けない夏休みの宿題ようなものだ。
また、それを引っ張ったり叱咤したり促したりするリーダー格と呼べる人物がいないのも問題なのだろう。
そしてアルトはそれなりに真面目な精神の持ち主で、ツッコミ気質のアルトは、その役にピッタリだった。
哀れなことに。
「お前等が不真面目過ぎるんだよ! もっと、こう――」
「もっと適当に生きようよー」
叱咤していると、ジェンじゃない声が飛んできた。だが、ミィレでもソフィアでもない。
「そーそー。君らが期限過ぎてくれればアタシ達も楽だしさあ」
続いてもう一つ別の声も甘い誘惑をしてくる。
それもartの面々の誰の声でもない。
「いやお前等なんで参加してんだよ!」
その二つの声にアルトは鋭いツッコミを入れると、ソファでくつろいでいた声の主達はアルトの方を振り返った。
先ほどまでアルトと一戦交えていたカノンとレイブンだった。
「見張り?」
「もっとこそこそ見張れよ!」
めろなの依頼をミィレが受けるという、一見なんでもなさそうなことは、どうやら効果がありすぎたらしく、めろなは反撃に出た。
刺客をよこしてきたのだ。
それが彼女たち、レイブンとカノン、のはずだった。
「えー、だって外よりこっちの方が楽なんだもん」
何故味方だけではなく、敵の態度にも頭を悩ませないといけないんだとアルトは内心嘆いた。
こうやって普通にお客さんとして上がってくるから、敵と認識することを忘れてしまうのだ。
作戦だったのなら見事なものだが、とてもそうは見えないほどのくつろぎっぷりを前にため息をつく。
しかも、ミィレやソフィアがお茶やお菓子を出したり、そこできゃいきゃいとガールズトークなんぞを繰り広げていたりしていると、本当に彼女たちが何なのか危うく忘れかける。
というか、忘れていた。
「とにかく! もう油断しない! さっさと外に出ろ」
「いいじゃないちょっとくらい。ケチ」
「あ、お茶のお替りくださいな」
「緑茶でいいかしら」
素直にお茶を出そうとするソフィアを押しとどめアルトは玄関を指さした。
「いいから出てけ!」
どうにかカノンとレイブンを追い出すと、アルトは気を取り直してコホンと咳払いをする。
「モンスター以外にも、あいつらの対策も考えないといけないな……」
「人相手だとソフィアちゃんが専門かな?」
「お前とジェンは?」
「わたしは戦えないことないけど、なるべく戦いたくない派。ジェンは人相手だと手加減しちゃう派」
「モンスター相手だと容赦ないのにね、ジェンって」
「情けなんてかけてたら素材集めなんてできねえからな」
鼻で笑うジェンにソフィアは瞳を輝かせた。
「ね、じゃあ一回だけでいいからモンスターと戦うと思って、俺と……」
「戦わねーよ。お前らみたいなのと一緒にすんじゃねえ」
ジェンが先回りして断る。その言葉にアルトは顔をしかめた。
「おい、私まで一緒くたにすんな」
「は?」
「お前"ら"って言ったろ。今」
「……ああ、ちげーよ。ツッコミじゃなくて、ソフィアと、わっちの相棒が仲良くてな。そいつのことだよ」
「お前の相棒……って」
「ああ、ギルドの方のな」
そういえば、ソフィアとジェンはギルドに所属していると聞いたことがあった。
「お前ら、もともと同僚か何かなのか?」
「いいえ、俺とジェンは別々のギルドに所属してるわ」
「なんで、ジェンの相棒とお前が仲良いんだ?」
「ギルド同士は結構友好的な関係なんだよ。仕事や人によっちゃ、協力したり情報共有したりしてな」
「だからジェンのことはまあまあ昔から知ってはいたのよね」
「知ってたの、存在だけだけどな」
「そうね、サタンとはよく遊びに行ったけど、ジェンはパーティー組むことになってからよね」
「お前はサタンと同類のゲスだと思ってたから関わりたくなかったんだ。まあ同類にはちがいねえけど」
どうやらサタンというのがジェンの相棒の呼び名らしい。
「とんでもない名前の奴だな」
「中身もとんでもねえぞ」
「あの黒いの、わたしもきらぁい」
ミィレがベッと舌を出して苦々しい顔で言う。本当に嫌いなのだろう。
サタン。
まさか本名ではないだろうが、それでも変わり者だと言うことは十分にわかる呼び名だ。
名は体を表すということわざもある。
加えてジェンとミィレの言いよう。
アルトはできれば関わらない方がいいかもしれないと名前を心にとめた。その時は、そう思った。
そしてアルトははっとする。
「じゃなくて! 話が脱線してんぞ!」
いつのまにやら仕事の"し"の字もない話になってしまっている。
まんまと乗せられて流されてしまっていた。
正路に戻そうと舵を握りなおしたアルトだったが、彼女たちは舵ごときに道を決められるほど大人しくはない。
「いいじゃんいいじゃん。どうにかなるって」
「どうにかって……」
「つーか腹減らね?」
「減ったー!」
「あら、もうこんな時間。そろそろご飯作るわね」
結局話し合いはそれで一旦打ち切りになった。晩御飯は結局魚だった。
だが、アルトはあきらめていなかった。
何とかこの状況を変えなければ。
ご飯を食べ終わって風呂に入り、落ち着いたところで、話し合いを試みようとアルトは懲りずに企んだ。
しかし、残念なことにそれより先にミィレが高らかに宣言をしたため、試すことすらできなかった。
「わたしもう寝るよー」
「もう!?」
時計はまだ22時を指したばかりだった。
「夜更かしはお肌の敵だからねーおやすみぃー」
続いてソフィアも小さく挙手をしながら言った。
「俺も。ちょっと読みかけの本があるからもう部屋に戻るわね。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
「いや、ジェンお前も何返事して……」
結局ソフィアとミィレはそのまま自室へ引っ込んでしまった。
アルトはむくれて、テーブルにコツコツと指を打ち付ける。
怒りで興奮してこのままでは眠れそうにない。
「そんなイライラしても目玉は増えねえぞ」
それなのに、残ったジェンものんきにあくびをするものだから、苛立った神経を更に逆なでされ、アルトはまた声を荒げた。
「うるっせえ! 8割くらいはてめェのせいだ! こんのサボリ魔!」
「あー? 何か不満あるのかよ」
「あるに決まってんだろ! ずっと昼寝しやがって!」
「うっせーな。あんな雑魚狩るのは新人のしごとだろ?」
一瞬もっともなことを言っている気がして言葉を詰まらせたアルトだったが、良く考えるとそうでもないと分かり、ジェンに拳骨を食らわせた。
「ってぇ……理不尽じゃね?」
「じゃねえよ!」
むしろ理不尽な環境に放り込まれているのは自分だと言いたかった。
一体どうすればいいのだろうか。これなら本当に一人でやってしまった方が……。
「……そうだ。私一人でやればいいのか」
気づいた時にはそんなことを言ってしまっていた。
「んなことしたらソフィアに怒られんぞ」
つぶやきが聞こえたらしいジェンが、そんなときだけずばりの指摘をしてきた。
そのことにカチンと来てしまったアルトは声を大きくした。
「お前が言わなきゃばれねーよ!」
「まじで? 大丈夫かよ」
「一人でやった方がストレスがないだけいい」
もはや脳で考えるより口が動くほうが早く、自分でも制御が聞いていない。
どんどん自分を追い込んでいく台詞を吐いてしまっている。
ジェンもさすがに少しむっとした様子を見せた。
「そうかよ。ま、わっちは楽できていいけど。後で泣きついてくるなよな」
「誰がんなことするか!」
「どうだか。じゃ、わっちも寝るか。ほんとに行かねーからな」
「いいつってんだろ! おやすみ!」
感情を投げつけるかのように怒鳴るものの、それくらいじゃこのイライラは消えない。
部屋に入っても、電気を消しても、ベットに入っても、脳が興奮しているらしく睡魔は訪れない。
この不完全燃焼どころじゃない怒りはモンスターにぶつけようと自分を宥め、その日はどうにかこうにか眠りについた。