第六章 第一話「猫洗い?」

小説の中で伸ばした手は、空を掻くことが多い気がする。 必死に伸ばした手で空気をつかみながら、アルトはそう思った。 その手から余裕で逃れたミィレは、外へと出て青い空を仰ぎ見て羽を広げている。 宝石のような羽は太陽の光を受けてキラキラと輝いた。 一つだけ一回り程小さいものが混じっているが、彼女の華奢な体を飛ばす事には支障ないだろう。 このままでは飛んで行ってしまう。 自分の手の届く距離まで近づこうとしたアルトは、慌てていたせいか足をもつれさせてしまった。 ミィレはその様子を見てくすり。勝利を確信している表情だ。 「じゃ、バイバイ」 無情にもそう言い放ったミィレが飛び上がるのと、アルトが地面に体をしたたか打ち付けたのはほぼ同時だった。 持っていたバケツが放り出され、大きな音を立てる。 だが痛みに悶えている暇はない。 ガバリと上半身だけを起き上がらせると、手を伸ばした。 さながら、雲や星をつかもうとする子供の様に。届かないと分かっていてもそうせずにはいられなかった。 「ミィレ! 戻ってこい! ミィレぇえ!」 アルトの悲痛な叫びは空へ吸い込まれ、ミィレに届いたかもわからない。 「くそっ」 伸ばしていた手を拳に替え、地面に叩きつける。 土の地面にひび割れも穴もできなかったが、衝撃で周りの石ころが数センチ浮き上がった。 近隣の住民は軽い地震が来たと思ったかもしれない。 倒れた拍子に地面に投げ出してしまった銀色のバケツを睨みながら考える。 「どうする。どうする。どうする。時間はまだあるが、あいつらが戻ってくる保証はない。無謀かもしれないが、もう、私一人で……」 頭の中でぐるぐると巡る言葉をブツブツと垂れ流していると、影が差し、袴に包まれた足が現れた。 上へ視線をたどらせると、そこにはジェンが立っていた。 「……玄関先で何やってんだ? お前」 彼女の顔は相変わらずお面で見えないが、声と雰囲気からして呆れているのはよくわかった。 アルトは驚いて言葉を失う。 「どうして、ここに……」 「どうしてもなにも、依頼主……えーと、めろなだっけ? そいつに例のブツを持っていくつってたろ」 確かにそのとおりである。 だが、だからこそ、彼女が何故この場にいるのかが、理解できなかった。 とりあえず、なけなしの冷静さで、小さな指摘を試みる。 「……もう昼だぞ」 「めんどくさかったからバックレれようかなって思ったんだよ」 「まだいるとは思わなかった」と正直に述べるジェン。 その正直すぎる言葉にもアルトは怒鳴りすらせず、ただただ茫然としていた。 怒鳴り声と同時かそれより早く拳骨を繰り出されると思っていたジェンは、その反応に若干の違和感を覚えるが、そういうこともあるだろうと、あまり深くは考えず話を先に進める。 「まいいや。早く行こうぜ。目玉は? まさか、もう取られたなんて言わねえよな?」 そう言って辺りを見回し、アルトの傍らにあるバケツを見つけた。 上には鍋の蓋をかぶせロープで固定しているそれの中には、これから依頼人に持っていく大事な大事なイェピカの目玉がいっぱいに入っている。昨日苦労して採取したものだ。 不用心だな、としゃがみ込んでそれを拾い上げたジェンの肩に、アルトの両手が置いた。 「お前、ジェンだよな」 突然すぎる分かりきった質問に、ジェンは怪訝に思いながらも肯定する。 「は? そりゃ、わっちはわっちだが……それがどうしたよ」 「そうか。お前はジェンか」 アルトはくつくつと笑い出し、その気味の悪さにジェンは眉をひそめる。 「……なんだよ、急に。キモチワリぃいてててててて! ツッコミ、なにしてんだ! 痛い、痛いって!」 肩に置かれた手に力を入れられ、軽く悲鳴を上げた。だがアルトは訴えを無視して平然と話し続ける。 「ジェン、私はお前のことを誤解してたよ」 このまま力を入れられ続けて肩が破壊されてしまってはたまらないと、ジェンは身じろぎしようとするが両肩はガッチリつかまれていて動けない。 うつむき気味のアルトの表情は前髪でよく見えないが、ただ口が弧を描いているのだけがわかった。 「何考えてるかわからなくて、常識がなくて、めんどくさがりで、楽することしか考えてない奴だと思ってたが……」 「いや、何考えてるかわかってんじゃねーか。お前結構失礼だよな」 「だけど、お前は真面目で、良い奴だったんだな……」 到底自分に向けられたとは思えない言葉で褒められ、薄気味悪さが増す。今はむしろ彼女の方が何を考えているかわからない。 背中がゾクリとした。こいつは本当にアルトなのか。偽物なんじゃないのか。 心霊系の事柄に弱いわけではないジェンも、そのゾクゾク感に支配されそうになり、慌てて頭を振る。 アルトと距離を取りたかったが、彼女の力にかなうはずがない。 お面の下から水色の瞳で、目の前の人物を見据えた。 「お前……何が目的だ。一体――」 「何って、決まっているだろう?」 目の前の人物は顔を上げると、ニヤリと笑った。 「……さ、行こうか」 二人はそのまま、街の方へ歩き出した。 結論から言うと、それは偽物でもなんでもなく紛れもないアルトだった。 「――つまり、朝起きたら誰もいなくて、待ってても誰も帰ってこねえし、一旦帰って来たミィレにも逃げられたと」 道すがら聞かされたアルトの愚痴を要約するとそういうことらしかった。 「そうだよ! まったく、私がいなかったらお前等どうやって仕事してたんだ!」 あの異様で不気味な威圧感は、ジェンまで逃がしてたまるかと思ったのがにじみ出た結果らしい。 先ほどは肩をつかまれていたから逃げられなかったが、あれではどんなに友好的な人間も逃げ出しただろう。 ジェンは今でも逃げ出したい。 「ま、そういうことってあるよな」 「ねえよ! お前ら全員どんだけ仕事したくねえんだ!」 一人くらいならサボりが出ることを覚悟していたが、まさかメンバー全員が帰ってこないことは予想していなかった。 昨夜の打合せの段階では朝、準備ができ次第、全員で行くことになっていたのにも関わらずだ。 不本意であろうとなんであろうと、帰ってきてくれたジェンに少しくらいは感謝すべきかもしれない。 だが、アルトの頭にはそんな考えは1ミリたりとも浮かばなかった。 「敵に誘拐されたってセンも一瞬考えたんだぞ!」 「それこそねえだろ」 ジェンが鼻で笑う。 たしかに、カノンとレイブンは強いが、たった三人で十数人の敵を相手にして圧勝できるくらいの実力を持ったartの面々が、そう易々と捕まることはないだろう。 ただし、本気で抵抗すればの話だ。 わざと捕まってしまえれば自動的に戦力外。 あの刺客の二人が拷問などをするとも思えないし、正当な理由を掲げてサボることができる。 実際ジェンはその手があったかと後悔した。 自分の考えていた作戦よりはるかに楽だ。 「……失敗したな」 そんなジェンの心中を知らずにアルトは口を尖らせた。 「だってお前等ならともかくソフィアも帰って来ないんだぞ」 ソフィアはたまにトンチンカンでずれた言動をすることもあるが、あの中では比較的真面目に行動してくれる方だ。 「それは確かに珍しいが……ソフィアが捕まるっていうのはまじで"ねえ"よ」 「わかんねえだろ! あのカノンってやつに氷漬けにされたら……」 「ないない」 確信めいた否定をするジェンの脳内には、誘拐しようとして敵に奇襲されたソフィアが喜々として応戦する姿がありありと浮かんだ。 そしてその戦いが楽しすぎて、時間を忘れるサマも。 なるほど、そういう可能性はあるかもしれない。 それならば宿屋から後ろをずっとついてきている気配が一つだけ、ということの説明もつく。 しかし、上を見上げると一瞬チラリと赤いものが空をよぎったのを見つけた。 カノンもレイブンもちゃんと自分たちをつけてきている。 どうやらソフィアは交戦中でこちらに来れないというわけではないらしい。 とすると彼女が予定を無視して、ここにいない理由はおそらく、彼女は今頃……。 アルトはジェンの考え事にも、ぴったりとくっついてついてきている人物にも気づかず、睨みながら人差し指をジェンに突き付けた。 「それ、ちゃんと抱えとけよ」 「……チッ。わぁってるよ」 「舌打ちしてんじゃねーよ!」 耳元で怒鳴るアルトに、ジェンは思わず片手で耳をふさいだ。 「うるっせーな。わかったつってんだろ」 ジェンは大きな問題を文字通り抱えていた。 例の目玉を詰めたバケツを持たされているのだ。 今回の仕事を完了させて報酬を受け取るためにはこれが必要不可欠。 苦労して集めたそれを、守銭奴な彼女が押し付けることはあっても、放り出すことはないと踏んだうえでの処置だった。 実際今のところは、良い首輪代わりになっている。 「で、これどこに持っていけばいいんだ? 役所で預かってくれんのか?」 「まずは役所に中間報告しに行く。そのあとめろなに届ける」 「ふぅん。そういうパターンか」と、聞いた割に興味なさげにジェンが相槌を打つ。 「っていうか、本当に依頼書ちゃんと読んでないんだな!? 役所に中間報告することもそこに書いてあっただろうが!」 ジェンはその人差し指を、手の甲で自分からそらした。 「だってわっち、字読むの苦手なんだよ。報酬額だけ確認できれば問題ねえだろ」 「あるに決まってんだろ! そんなに報酬が大事なら、もっと仕事に積極的に取り組めよな!?」 「へーへー。ほら、役所着いたぞ。入ろうぜ」 苦手だった役所のハゲはもういない。 ジェンは躊躇することなく扉を開けた。 爆破テロの影響で場所を移した役所はまだ慌ただしさの面影を残してはいたが、機能的にはすっかり元通りで、アルトがカウンターへ依頼の報告に行くと問題なく対応が進められた。 ジェンは一歩下がったところでそれを眺める。 ここでの処理を全部自分に丸投げる気だと気づいたアルトがジェンを睨んでいると、簡易的にテーブルで作られたカウンターごしに役所の受付であるサクが微笑む。 「はい、それでは、依頼人にはこちらから連絡をしておきます。依頼品が受け渡された事が確認でき次第、報酬をお渡しするからね」 「あの……それなんですが」 アルトは、小さく手を上げておずおずと尋ねてみる。 「こちらで依頼品を渡してもらうことはできませんか?」 サクは眉を下げる。 「ごめんなさいね。それはできないの。依頼書にもそういう記載があるでしょう」 「……ですよね」 「ダメもとでいいなら、依頼人に交渉してみるけど。どうする?」 「いえ、大丈夫です。すみません」 依頼品を直接届けて初めてクエスト達成とされることは、依頼書にも記述してあったことをアルトは知っていた。この確認がそもそもダメもとだったのだ。 依頼人のめろなが、ここにきてその条件を取り下げてくれる可能性はゼロ。 最後の最後まで危険を背負わなければならないらしい。 アルトは気を引き締めなおした。 「そっか。それじゃ、このまま進めるわね。ええと、時間と場所の指定は……」 サクがペラペラと書類をめくる。彼女が目的の記述を見つける前にアルトが答えた。 「場所は図書館で、時間は開館から閉館まで。期限のである明日までに届ければいいんですよね」 「ええと、うん。合ってるわ」 サクもすぐに目的の項目を見つけ、アルトの答えが間違っていないことを確認した。 「うん、確認は以上です。最後まで頑張ってね」 「ありがとうございます。それじゃあ……」 会釈をしてアルトが半身を引いたところで、ジェンがのんきに欠伸をした。 「終わったか?」 「お前な、いい加減にしろよな! 全部丸投げかよ!?」 「まあまあ。あとでわっちに感謝するから。仕事はちゃんとやるって」 「本当だろうな……」 役所を後にしようと、今度はアルトが先頭に出口のドアノブに手を伸ばす。 だが、その手から逃げるかのようにドアが外側に引かれた。 「あ?」 「……あ?」 入ってきた顔を見てアルトが声を漏らすと、一拍相手も置いて同じ音で違うニュアンスの声を出した。 相手は数秒アルトを見つめて、やっと彼女が誰だか認識する。 「……なんだアルトかよ」 「なんだとはなんだ。カルのくせに」 「……つーか、なんだよその顔」 そういって、カルは目元を指さす。 アルトの右目の上にはまだ薄く青あざが残っていた。昨日、レイブンから一発もらった時にできたものだ。 帰ってから冷やしてはいたが、さすがに昨日今日では治らなかった。 「ああちょっと……喧嘩というか、仕事というか」 「なんだよ、お前腕鈍ったな」 「あんだと」 その言い方に少々むっとして言い返そうとするが、明らかにカルの反応が鈍い。 頭が働いていないようだ。 まるで魔法学校時代に、喧嘩して備品を壊した罰で朝まで掃除をさせられた時のような。 「……お前こそ、なんだよその腑抜けた面」 「うるせぇ。仕方ねーだろ、昨日は……」 「ちょっと、カル」 呼びかけられると同時に肩を叩かれ、カルは振り返る。 「後ろがつっかえている」 「……ああ、悪い」 カルが後ろの声に押されて役所の中に入ると、彼のパーティーメンバーが姿を現した。 ジョーカーも、桜綺もきつねも、カルと同じくうつろな目をしていて、身なりも汚れていたり、よれていたり。 大きな紙袋を抱えているジョーカーはうまく力が入らないのか、何度も持ち直している。 流石のアルトも心配になってくる。 「お前ら……大丈夫か?」 「ああ……。……問題ない」 聞いたことにだけへのカルの返答に、あんまりだと思ったのか、ジョーカーが補足を入れてくれた。 「ちょっと昨日の朝から走り回って疲れてるだけ……心配はいらないよ」 よく見れば、くあ、と欠伸をするカルの目の下に隈がある。 推察通り、徹夜だっただけのようだ。 アルトはほっとしてはっとした。 これでは彼らを心配しているみたいじゃないか。 実際その通りなのだが、あまりに露骨過ぎた自分の言動が少し恥ずかしい。 「そうか、ならいい」 変にからかわれるかもしれないと思い、早口でそっけなく言って彼らからそっと離れようとする。 詳細まで聞き出すのは、”下世話な好奇心”に値するとも思ったため、追及はなしだ。 ふらふらとカウンターへと向かうカル達を、本当に大丈夫だろうかと、アルトは見つめる。 後ろ髪をひかれまだ役所の出口で突っ立っていると、見かねたジェンが声をかけた。 「おい、行こうぜ」 「あ、ああ」 アルトが改めてドアノブに手を伸ばした。 「大変だったみたいね。話は聞いてるわ」 カウンターのサクが、彼らにねぎらいの言葉をかけたのが肩越しに聞こえてきた。 「本当ですよ……」 「まったく、猫の相手だけでも大変だったってのに……」 「っていうか、あの量。イェピカの生態系に異常きたすんじゃないですかね」 「そこらへんは、後日調査が行われるそうよ。イェピカについてはちょっと前から不自然に数が減っているらしいわ」 “イェピカ”。”猫”。 その2つの単語にアルトはドキリとした。 また動きを止め、聞き耳を立てるが、報告や報酬の手続きに話が移ってしまい、どうしてその単語が出てきたのかはわからない。 ふと振り返ると、ジェンも彼らの方を向いていた。 どういうことだろうか。ここ最近、猫が何故かイェピカの、しかも目玉だけを狙っているということはアルト達も知っていた。 というより、そのおかげで何度か仕事の邪魔をされたのだ。 アルトは迷う。 これは“下世話な好奇心”なのだろうか。 否。今回は自分たちの仕事に関係があることであり、もしかしたら猫がなんらかの形で犠牲になっているかもしれない。 つまり、これは聞いてもいいことなのだ。 アルトの方に向き直ったジェンと目が合う。 二人は確認するように頷いた。 「おい、お前ら。んなところで突っ立ってなにやってんだ?」 いつの間にか用を済ませてしまったらしいカル達が近づいてきた。 アルトとジェンは同時に答えた。 「なんでもない」とジェン。 「話が聞きたい」とアルト。 言葉が混ざり合い、彼女たちが何を言ったのかわからなかったのだろう。 カル達はキョトンとした顔をした。 それは声を発した側のアルト達も同じだった。 「……お前、なんつった?」 「わっちは”なんでもない”って……ツッコミ、お前”話が聞きたい”つったように聞こえたが気のせいか?」 完全な真逆な言葉を発していたことにアルトは混乱した。 「言ったわ! お前こそなんで誤魔化してんだよ!? お前もこいつらの話聞いたんだろ!?」 「ああ」 「じゃあなんでだよ!? そもそもあの頷いたのはなんだったんだ!?」 「いや、面倒ごとに巻き込まれそうだから回避しようって、合図かと」 「お前なぁ、なんでそうめんどくさがり……」   彼女たちの言い争いが長くなりそうになることを察し、桜綺がゴホン、と咳払いで注目を促した。 「だってよー。平和に行きてえじゃん? わざわざ自分からまきこまれたくねえ」 ゴホン。 「情報はあった方がいいだろうが!」 ゴホンゴホン。 「知らない方がいいことだってあるんじゃね?」 ゴホゴホウェッホン! 「屁理屈言ってんじゃ……」 ゲホゴホゲホゲホゲホ! 「ああくそ! 何なんだよ!? うるせえな!!」 やっと咳払いに気づいたアルトが視線を向けると、桜綺がきつねに背中をさすられて咳をしていた。 わざとしているうちにのどを痛めて本当に咳をし始めてしまったようだ。 「風邪か!? お大事に!」 「いや、……お主らが脱線してたせいなんだが」 咳が続いて涙目になった桜綺が弱々しく文句を言い、また咳に戻った。 ジョーカーが引き継ぐようにアルトたちに問いかける。 「んで、俺達帰っていいの?」 「いいぞ」とジェン。 「ダメだ」とアルト。 また意見が分かれたが、今度はアルトがギッと睨んで力づくで自分の意見を通した。 睨まれたジェンは好きにしろよと、肩をすくめる。 やっとまとまった意見に、アルトが落ち着いてカル達にお願いする。 「……ちょっと、お前らの仕事のこと聞かせてもらっていいか? 今報告した仕事のことだ」 「俺らの仕事?」 カルが眠そうな半眼の上の眉をひそめる。 ジョーカーが首を傾げた。 「猫洗いの?」 「猫洗い?」 アルトも首をかしげる。 予想よりも平和そうな仕事に聞こえたからだ。 カルがあー、と襟足のあたり掻いた。 「確かにお前に手伝ってもらえばよかった。……いや、お前も仕事があったんだっけ。ああ、くそ。頭が回らねえ」 ついでに若干呂律も回っていない。 “猫”。そもそもが猫好きなアルトはその単語には普段から反応してしまう。 だが、今の彼女のリアクションはいつもとは違った。 徹夜で頭が回らないながらも、幼馴染の様子にカルも気が付いた。 「……んだよ。なんかあったのか?」 「そうだな、ちょっと長くなるかもしれない。一旦場所を移そう」

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