「ちいさくなった卓君」

一歩進むごとに目線が低くなっていった。 最初はデスクワークで疲れて猫背にでもなっているのだと思った。 しかし、背筋を伸ばしてみても天井はどんどん遠ざかる一方。 立ち止まると、まるでゆっくりと床に吸い込まれていっているようだった。 でも、足はしっかり床についているし、床がへこんでいたり、穴がいているわけでもない。 顔を上げると僕の腰くらい高さがあるはずのテーブルの裏側が見える。 そこでやっとおかしいということに気付いた。 あまりにも突飛な現象に頭がついてこなかったが、どうやら家が巨大化していっているらしい。 疲れて幻覚を見ているか、夢なのかもしれないとおもい、頬をつねってみたが痛かった。 残念なことに現実に起っている事のようだ。 家の巨大化は、椅子の裏ですらジャンプしても手が届かないくらいで止まった。 きっとこの家のサイズに会うほどの巨人から見れば僕はおもちゃのように小さいのだろう。 しかし、困りました。 状況は把握できても、家にもとに戻す方法が分からない。 そもそも、原因すら分からない。 物を巨大化させたり縮小する魔法はあるにはあるのでしょうが、僕は見たことがない。 ソフィアなら何か知っているかもしれないけど、さっき仕事に行ってしまったし、 蒼も食材の仕入れで今日は一日家を空けている。 僕はまだ仕事が残っていて、お昼ごはんだってまだ食べていない。 たしかテーブルの上に蒼が作りおきしてくれたおにぎりがあるはずだけど、この上までたどり着くにはちょっと根気がいるだろう。 僕は大きくてツルツルしたテーブルの足を見て深くため息をついた。 かといって、仕事に戻るのも難しそうだ。 机はこのテーブルくらい高いはずだし、部屋にもどるまでにいくつかのドアを開けなければいけない。 今のサイズの僕ではドアはびくともしないだろう。 なんとか開けられたとしても、はさまれたら洒落にならない。 「ん? そこにいるのは卓の坊主じゃねェですかィ」 途方にくれていると声を掛けられた。振り返るとそこには、一つ目の鬼が立っていた。 虎柄のパンツは穿いていないが、金棒を肩に担いでいるその姿は昔話に出てくる鬼そのものだった。 「随分小さくなりやしたねェ」 「家鳴やなりさんが大きくなったんですよ。あとお酒臭いです。また昼間っから飲んでやがりましたね」 「酒はいつ飲んでもうめぇからねェ。ところで、儂がでかくなったたァ、どういうことですかィ?」 僕は今起ったことを説明した。 文殊の知恵を出すには一人足りないけど、一人よりいい解決策が浮かぶかもしれない。 そう思ったのだけれど、家鳴りさんもこの現象についてはまったく心当たりがないらしい。 この人、いやこの鬼は家に住み着いている家鳴という妖怪だ。 とくに悪さをする妖怪ではなく、お酒とどんちゃん騒ぎが好きな陽気な鬼で、大人には見えないらしい。 だから蒼は姿を見ることが出来ず、彼の立てた音だけを認識している。 大人でも魔力の強い人は見ることが出来るみたいだから、僕は大人になっても見ることができるのでしょう。 家に住み着いている妖怪だからか、彼も巨大化してしまったらしい。 本来は僕の拳大のおおきさしかないのだが、今は僕より少し高いくらいの背丈だ。 このくらいの大きさなら蒼も見えたりしないだろうか。 僕が少し小さいというのは角の分負けているのだろう。 きっとそうだ。 「なるほどねェ……。だけど、坊主。儂が思うに、家が大きくなったんじゃなくて、おめェが小さくなただと思いますぜィ」 「それはありませんね」 僕は即答した。家鳴さんは首をかしげた。 「どうしてですかィ?」 「認めたくないからです」 僕は年齢の割りに小柄で、そのせいかよく子ども扱いされる。 まだまだ成長期だとはいえ、少し気にしているんだ。 それ以上小さくなったなんて考えたくありません。 僕がそう主張すると、家鳴さんは「そうですかィ」と苦笑いした。 「それで、お願いがあるんですが……」 「言っとけど、元に戻すなんてできませんぜィ」 「分かってますよ。そうじゃなくて、部屋を移動するの手伝ってほしいんです。あんなに大きなドアは僕一人じゃ開けられないので」 「あぁ。なるほど。わかりましたぜィ。それならお安い御用でさァ」 「お願いします」 僕は家鳴さんにドアを開けてもらって廊下に出た。 彼はちいさいのに力は僕以上にある。 以前タンスをもちあげている姿を見たことがあるから、蒼より力が強いかもしれない。 タンスに比べればドアなんて軽いものだ。 僕たちは難なく目的の部屋へたどり着くことができた。 そして新たな難関にぶつかる。 「さて、問題はここからどうやって机の上にいくかですね」 「考えてなかったんですかィ?」 「そういうわけじゃないんですけど……」 やっぱり思ったとおり、テーブルは高くてジャンプや背伸びくらいじゃ上によじ登れそうにない。 考えられる方法としては、ワイヤーを張り巡らせてそれを足場にして上っていく方法だけど……。 「じゃあ、儂が上に上げてやりますよ」 「え、できるんです……か!?」 いきなり胸倉をつかまれた。唖然としていると、体が宙に浮きそして…… 「受身とってくだせェよ……坊主ッ!」 「え、う、わぁああああああああ!?」 放り投げられた。なんていう力技。 いやそれよりもなによりも、このままの軌道で行ったら机の裏側に激突だ。 そして落下するのは目に見えている。 最悪机の裏側に突き刺さってしまう。 そんな姿誰かに見られるわけに行かないし、命の危機だ。 僕は慌ててワイヤーを投げて机の脚に巻きつけ、一気にワイヤーを縮めてなんとか方向転換した。 その勢いでテーブルの下から出たら、今度はワイヤーを机の上のコップに巻きつけ、同じように縮めた。 勢いよくコップにぶつかったけど、コップが割れることも倒れることもなかった。 中にまだ液体が入っていたのが幸いしたらしい。 鼻が少し痛いけど、骨が折れたり、机に突き刺さったりするよりいいでしょう。 「大丈夫かィ? 坊主!」 下から家鳴さんが声をかけてきた。僕は下を見下ろして返事を返す。 「そんなわけないでしょう、この酔っ払い!」 「それだけ叫べれば上等でだァ!」 がはは、と笑う家鳴さんに僕はため息をついた。 「元に戻ったら踏んづけますよ!」 「自分が小さくなったってわかってるじゃねェか!」 しまった。僕としたことが。思わず口を滑らせてしまった。 「とりあえず、ありがとうございました」 「おう! 困ったらまた呼んでくだせェ!」 そういって、家鳴さんは部屋の外へ出て行ってしまった。 僕はその後姿を見送って、机の上と向き合う。 そこには紙の山と筆記用具、そして愛用の算盤があった。 全部家同様巨大化している。 とりあえずそこら辺に転がっていた鉛筆を持ち上げた。 書道パフォーマンスのように体全体を使えば、書けないことはなさそうだ。 算盤の珠をはじくのも少し大変そうだけど、どうにか使うことはできるだろう。 時間はかかるがこれならば仕事を続けられるということがわかると、安堵のため息をついて早速作業を再開した。 僕は計算が苦手な蒼の代わりに、彼の店の経理を任せてもらっている。 蒼の料理はものすごくおいしい。 この僕が文句をつけられないほど。 でもお客は来るかもしれないけど、ただ美味しい料理を提供するだけじゃお店はやっていけない。 放っておくと赤字になって倒産してしまうだろう。 彼ならば料理をただ同然で売るなんて事やりかねない。 知らない人の店がつぶれたとしても知ったことではないけど、他でもない蒼の店だ。 できるならばつぶしたくない。 それに僕は一度はじめたことはきっちりしないと気がすまない性格だから、 どんな事態になったとしてもこの仕事は今日までちゃんとやり遂げてきた。 ちょっと大きさが変わったくらいでやめるわけにもいかない。 蒼が仕入れから帰ってきたらまた、領収書の山と対峙することになるのだ。 今のうちに少しでも敵を減らしておかないと、後が大変なことになる。 僕は黙々と作業を続けた。 算盤の珠をひとつひとつ動かして、数字を丁寧に書いた。 消しゴムは重かったし、書いた文字もいつもよりゆがんでしまったけどなにもしないよりましだ。 ひと段落つくころにはもう外はオレンジ色に染まりつつあった。 これだけ終わらせられれば上等でしょう。 とりあえず休憩をしないと僕の体力が持たない。 と、鉛筆を転がして座り込んだ。 こんなに体力を使う事務はほかにない。額ににじんだ汗をぬぐう。 そういえば、僕は自分の頭をなでた。 そこにはいつもかぶっている帽子がなかった。 もともと傷を隠すためにかぶっていたのだし、家に一人でいる今はかぶる必要はないのだけれど、 やっぱりなんだか物足りない感じがする。 きょろきょろとあたりを見回してみると、机の端のほうにに置いてあった。 やっぱり、巨大化している。 あれではかぶることはできませんね。 でも、ひっくり返せばベット代わりになるかも。 少なくとも硬い机の上に寝ころがるよりは幾分か快適だろう。 僕はその考えを実行すべく、帽子に近づいた。 途中置いてあった毛布にするのにちょうどよさそうなハンカチを見つけたから担いで持っていった。 帽子もハンカチも少し大きいけどそれは問題ではない。 問題なのは帽子をひっくり返せるかどうかだ。 つばのところに手をかけてみる。 鉛筆や消しゴムに比べると少し重いけど、どうにかなるかもしれない。 僕は試行錯誤しながらなんとかひっくりかえそうとがんばった。 場所を変えてみたり、持ち方を変えてみたり。 でも、帽子は少し持ち上がりはするけど裏返しにはならない。 あきらめかけたそのとき。 やっと帽子が上に上がった。 ジャンプする要領で上に押し上げる。 僕の手を離れたつばが上に上がっていくのを見てガッツポーズをした。 ……けど、垂直ちかくまで持ち上がったつばは途中でいきなり重力に従い始め、こちらに落ちてきてしまった。 「え、う、わ!?」 落ちてくる帽子のつばをよけようとして、思わず後ずさりをすると、そこには床がなかった。 奮闘している間に机の端っこに寄っていてしまったらしい。 なんとか体重を前にかけるようにして落ちるのを回避したが、 このまま体を後ろにそらせている姿勢をキープするのも脱するのも難しい。 そろそろ腹筋がつってきそうだ。 さすがにこの高さからまっさかさまに落ちたらトマトのようにつぶれてしまうでしょう。 「や……なり、さん……ッ!」 助けを呼ぶために振り絞るように出した声も、か細くて到底他の部屋にいると思われる家鳴さんには聞こえないだろう。 それでもなんとか持ちこたえている僕をあざ笑うかのように、帽子が追い討ちをかけるように落ちて風を起こした。 僕はバランスを崩してテーブルの外に出てしまった。 そのまま落下。 「わぁあああああああ!?」 まだ走馬灯を見るわけに行かない。 先ほど机の上に上がったときのようにワイヤーをどこかに固定して捕まれば、 床に激突は避けられるということアイデアを必死に搾り出した。 無我夢中でワイヤーを机のあしに巻きつける。 これで大丈夫だ。 安心したのもつかのま、背中に何かがぶつかった。 床にはまだ距離があるはず。 一瞬頭が真っ白になった。 床にぶつかったというのに体はまだ沈んでいって、気づくと真っ暗な場所にいた。 上からチカチカと光が入ってくるが回りはまっくらだ。 硬いはずの床が少し柔らかい。 床を注意深く見てみるとそれは紙くずの山だった。 そうだ、あの場所にはちょうど、スライドするふたつきのゴミ箱があったはず。 運良くその中に入ったんだ。 あのチカチカは僕が入った勢いでふたがぐらぐら揺れてるからそう見えるんですね。 ごみと一緒に捨てられる前にさっさとここから脱出しなくては。 僕はワイヤーを縮めて上へと上った。 ところが、 「ぉぶっ!?」 タイミングが悪かったらしく蓋に激突してしまった。 僕は紙の山に逆戻りし、ワイヤーは切れてしまった。 紙のやまというより海だ。 その海にダイブした僕はうまく息ができない。 もがいてなんとか海から顔を出して息継ぎをする。 上を仰ぐともう光は入って来ていなかった。 蓋は完全に閉じてしまったらしい。 これにはさすがの僕も狼狽の色を隠せない。 得意の雷魔法でゴミ箱を壊してもいいけど、僕や周りに被害が及ばないだろうか。 電気で紙の山が燃えるかもしれない。 それこそ絶体絶命だ。 「おい、坊主! どうかしたかィ? 悲鳴が聞こえたが……」 そのとき、外から家鳴さんの声が聞こえてきた。 タイミングのいいときに現れてくれる鬼だ。 でももう少し早く来てほしかったな。という文句は飲み込んで、僕は声を張り上げた。 「家鳴さん! ここです! すいませんが、助けてくださ……」 「なんだァ? 坊主いねェじゃねえか。あの姿で出かけたのか? 勇気のあるこった」 遠ざかっていく家鳴さんの足音。僕は慌てた。 声をさらに張り上げる。 「ちょ、待ってください! 家鳴さん! 僕はここです! 家鳴さん!」 壁をドントンと叩いて主張するもむなしく、家鳴さんの足音は聞こえなくなってしまった。 そんな……。 自分の場所すらわからなくなりそうな真っ暗な空間。 紙たてるかさかさという音と僕の呼吸しか聞こえない。 冷たくて硬い壁、紙に足を取られてうまく身動きが取れない。 もしかして、このまま誰にも気づかれないかもしれない。 さっきは冗談でごみと一緒に捨てられるなんて思ったけど、その可能性がないなんて言い切れない。 「だ、誰か……」 恐ろしくなって思わず出した声も、闇に呑まれる。 目をつぶっているのか開けているのか、瞬きをしているのかわからなくなってきた。 闇がどんどん迫ってくる気がする。 迫ってきた黒が口の中にまで入ってくる感覚まで感じてきた。 そのまま黒に溶けてしまいそうだ。 僕は髪や身に着けてる服が黒いから、すぐに溶けてしまうんじゃないでしょうか。 暗いのや、疲れのせいか眠くなってきた。 ぐぅ、とおなかがなった。 そういえば、おなかすいてたんだっけ。 蒼のあんまん、もう一回食べたかったな。 紙の上に倒れこんだ。 がさがさという紙も闇色に染まっている。そこに踊っている文字は少し見えにくい。 僕は意識さえも暗闇に浸した。 遠のく意識が、なんだかやみに侵食されるような感覚に思えてきたのだ。 もう遠くの方で何か聞こえる気がするのも、気にならない。 完全に闇に浸ってしまったそのとき、突然一気に光に引き戻された。 黒かった視界が一気に真っ白になった。 「卓ッ!」 「しっかりしぃ、卓、起きろ!」 そして叩きつけられた声によって活動を停止しかけていた脳が無理やり揺さぶられた。 いきなりのことに思わず目をぱちくりさせる。 目の前には水にぬれた黄色、蒼の瞳があった。 「……蒼?」 「大丈夫か!? どっか痛いか!?」 首を振ると、そばにソフィアもいることがわかった。 巨人のように大きな二人は顔を真っ青にして僕の顔を覗き込んでいた。 「卓、これ飲んで」 そういって、差し出された銀色のスプーンには紫色の液体が入っていた。 ソフィアは有無を言わさずそれを僕の口につっこんだ。 突然大量の液体を飲まされた僕は溺死するんじゃないだろうかと思った。 なんとかそれを飲み込むと、体を支えてくれる蒼の手がどんどん小さくなっていった。 ちがう、これは……、元の大きさに戻っていっている。 蒼がいつもの大きさに戻ると、ものすごい力で抱きしめられた。 「よかった、卓本当によかった……! お前がいなくなったら兄ちゃん、兄ちゃん……!」 あまりの強さに思わず咳き込む。 「ちょっと、蒼」 それを見かねてソフィアが引き剥がしてくれた。よかった、たすかった。 「蒼ばっかりずるいわよ、俺も」 そういって、ソフィアも抱きついていた。 まだ抱きつき足りないのか、その上から蒼が抱きつく。 「ふ、二人とも。僕、つ、つぶれちゃいますよ……!」 いくら講義しても二人は離れてくれない。 結局二人の気が済むまで開放はしてもらえなかった。 二人の暖かい体温はとても心地がよかったのだけど、突然のことに僕の頭は置いてけぼりだった。 「小さくなる薬?」 理解ができない僕に説明してくれる役をソフィアが買って出てくれた。 というか、今回の事件について原因を知っているのは彼女しかいない。 落ち着いて話すために、僕が小さくなったときにいた部屋に移動した。 あんなに高かったテーブルは僕の腰の高さくらいに縮んでいる。 「試作品だったらしいんだけどね、ミィレが作ったそれをジュースと勘違いして俺が家に持ってきちゃったのよ」 「で、それを僕が飲んでしまったと」 考えないようにはしていましたが、家鳴さんの言うように僕が小さくなったんですね。 小さくなる薬があるなら大きくなる薬もないものでしょうか。 なんて考えはすぐに打ち消した。 今回のを見ていると、全体的に体の多きさが変わるものだ。 もし大きくなる薬を飲んだら僕は町を襲う怪獣のようになってしまうだろう。 それも楽しそうだけど、今回よりもにきっといろいろと大変なことになる。 そういえば、まだ机の上のコップにその小さくなる薬が残っているはずだ。 また間違えて飲む前に処分しなくちゃいけませんね。 「そういうこと。  慌ててその薬をとりに帰ったらジュースも卓もいないから焦ったわ。  蒼と一緒にどんだけ長い時間、探したことか……」 そういってソフィアは僕の頭をなでた。 こんな表情のソフィアははじめてみたかもしれない。 意識を手放したのは一瞬だと思っていたけどどうやら、ずいぶん長く眠っていたらしい。 オレンジ色だった空は真っ黒になっていた。 でも、あのゴミ箱の中のように押し迫ってくる黒ではなく、広さを感じさせる黒。 雲ひとつなくてお月様もお星様も輝いている。 「すまんな、卓……。兄ちゃんとしたことが弟のピンチにすぐに駆けつけることができないなんて……」 そういって蒼が出したのはまっしろでやわらかそうな白い丸。 あんまんだ。僕が最後に食べたかったな、なんて考えていたあんまんだった。 「おなかすいたやろ」 「ありがとうございます」 二つに割るとほわっと湯気が出た。 鼻をくすぐるあんこの香りに、たまらずかぶりついた。 いつもより美味しく感じるのはおなかがすいているからだろうか。 大切に幸せをかみ締めるようにそれを食べながら、僕は蒼にひとつお願いをした。 「蒼の持っているゴミ箱、僕のと変えてもらえませんか?」 「ええけど、ゴミ箱のほしいのがあるなら兄ちゃん買ったるで?」 「いえ、いいんです。もったいないですし。どうせ今日も高い食材買ったんでしょう?」 節約しないと、というと蒼は顔を引きつらせた。 どうやら図星らしい。新鮮で美味しい食材がいいというのはわかりますが、もうすこし値段も気にしてほしいところですね。 その後、ゴミ箱を交換してもらうため蒼の部屋に入ると、べろんべろんによっぱらって倒れている家鳴さんをを発見した。 さすがに踏みつけるのはかわいそうなので指でつついてやったら、ほっぺたがとても柔らかかった。 ほっぺたを堪能したところで、僕の部屋のゴミ箱は蒼の蓋のないゴミ箱と交換してもらった。 これで、落ちても大丈夫ですね。

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